怠慢ではなく、業界構造として“できない”理由
Web制作会社に依頼すれば、SEO対策も含めてしっかり対応してくれる。
多くの経営者や担当者は、少なからずそのような期待を持っています。しかし現実には、技術SEO、特にインデックス設計やクロールバジェット最適化、レンダリングの問題、内部構造の最適化といった領域にまで踏み込んで対応しているWeb制作会社は、業界全体で見ると極めて少数です。
これはWeb制作会社の努力不足や知識不足といった単純な話ではありません。
問題の本質は、Web制作会社個々の姿勢ではなく、Web制作業界そのものが抱えている構造的な制約にあります。
「なぜWeb制作会社は技術SEOをやらないのか」という問いに対して、業界内部の視点から冷静に分解し、その背景にあるビジネスモデル、契約形態、人材構造、そしてクライアント側の期待値とのズレまでを含めて整理していきます。
技術SEOとは何か、なぜ“別物”なのか
まず前提として整理しておくべきなのは、技術SEOが通常イメージされるSEO対策とは本質的に異なる領域であるという点です。
多くのWeb制作会社が「SEO対応」として語る内容は、タイトルタグやディスクリプションの設定、見出し構造の整理、キーワードの配置、場合によっては簡単な内部リンク調整といった、いわば表層的な最適化に留まります。これらは確かにSEOの一部ではありますが、検索エンジンの評価ロジックの根幹を支える要素ではありません。
一方、技術SEOとは、Googleがどのようにページをクロールし、どのようにインデックスし、どのような条件で評価対象に含めるかという、検索エンジン側の挙動そのものを前提に設計を行う領域です。具体的には、URL構造の正規化、重複ページの制御、noindexやcanonicalの適切な運用、クロールバジェットの配分、JavaScriptレンダリングの影響、ページ生成ロジックとインデックス効率の関係など、非常に専門性の高い内容が含まれます。
この領域は、デザインやHTMLコーディングとは全く異なる知識体系を要求されます。
つまり、技術SEOは「制作の延長」ではなく、「検索エンジン理解を前提とした設計思想」に近い分野なのです。
Web制作会社のビジネスモデルが技術SEOと相性が悪い理由
多くのWeb制作会社は、受託制作モデルを基本としています。
案件単位で制作費を受け取り、納品をもってプロジェクトを完了させるというモデルです。この構造は、技術SEOとの相性が極めて悪いという現実があります。
技術SEOは、設計段階での仮説と、公開後のインデックス状況、クロール状況、検索結果の変化を継続的に観測し、必要に応じて修正を加えていくプロセスが不可欠です。つまり、一度作って終わり、という性質のものではありません。
しかし、Web制作会社の契約は多くの場合「制作範囲」が明確に定義されています。
トップページ、下層ページ、問い合わせフォーム、レスポンシブ対応、といった具合に、成果物ベースで契約が組まれています。その中に「クロール状況を3か月間観測し、インデックスの偏りがあれば構造を再設計する」といった内容が含まれることは、ほとんどありません。
結果として、Web制作会社が技術SEOに踏み込もうとすると、契約外業務、つまり無償対応になりやすい構造が生まれます。
これは企業として継続できるモデルではなく、最初から避けられてしまうのは、ある意味当然とも言えます。
技術SEOは「説明コスト」が異常に高い
技術SEOが敬遠されるもう一つの理由は、クライアントへの説明コストの高さです。
例えば、「クロールバジェットを最適化するために、パラメータ付きURLを制御し、インデックスされるページ数を意図的に減らします」と説明したとします。これを即座に理解し、必要性を納得できるクライアントはほとんどいません。
むしろ、「ページ数を減らすのはSEO的にマイナスではないのか」「全部インデックスされた方が良いのではないか」といった反応が返ってくることの方が一般的です。
Web制作会社側からすると、技術SEOは説明しても理解されにくく、理解されないままでは価値を感じてもらえず、結果として評価にも売上にもつながりにくい領域になります。そのため、どうしても「説明しやすい施策」「見た目で分かる改善」に注力する方向に傾きがちになります。
タイトルや見出し、デザイン変更であれば、クライアントは目で見て変化を確認できます。しかし、インデックスの最適化やクロール制御は、Search Consoleを見なければ実感できません。
この可視性の低さも、技術SEOが敬遠される大きな要因です。
Web制作会社内部の人材構造の問題
Web制作会社の多くは、デザイナー、フロントエンドエンジニア、ディレクターを中心に組織が構成されています。これらの職種は、ユーザー体験や表現、制作進行に強みを持っていますが、検索エンジンの内部ロジックに精通しているケースは稀です。
技術SEOを本格的に扱うには、サーバー構成、CMSの内部挙動、ログ解析、場合によってはプログラムレベルでの理解が必要になります。しかし、そのようなスキルを持つ人材は、Web制作会社よりも、事業会社のWeb担当やSEO専門会社、あるいはプロダクト開発側に流れやすい傾向があります。
Web制作会社が技術SEO人材を採用しようとすると、採用コストが高くなるだけでなく、その人材を十分に活かせる案件が常にあるとは限りません。結果として、組織として技術SEOを内製化する合理性が生まれにくいのです。
コアアップデートと技術SEOの距離感
Googleのコアアップデートは、コンテンツ品質だけでなく、サイト全体の評価構造、インデックスの整理状況、技術的な健全性も含めて評価が更新される傾向があります。
しかし、Web制作会社の多くは、コアアップデートを「順位が変動するイベント」として捉えており、その内部要因まで踏み込んで分析することはあまりありません。なぜなら、コアアップデートの影響を正確に評価するには、過去のクロールログ、インデックス推移、ページごとの評価変化など、長期的なデータ蓄積が必要になるからです。
制作が中心業務である会社にとって、こうした分析は業務範囲外になりやすく、「アップデートが来たので様子を見ましょう」という対応に留まるケースがほとんどです。
結果として、技術SEOとコアアップデートの関係性が体系的に語られることは少なくなります。
技術SEOは「成果保証」ができない
Web制作会社が技術SEOを前面に出しにくい理由として、成果保証の問題も無視できません。
デザイン改善やUI改善であれば、「見やすくなった」「使いやすくなった」といった評価が比較的得やすいですが、技術SEOは検索エンジンという外部要因に依存します。どれだけ最適化を行っても、順位や流入が必ず増えるとは限りません。
Web制作会社は、クライアントとの信頼関係を重視します。成果が見えにくく、説明も難しく、保証もできない施策を積極的に提案することは、リスクが高い判断になります。そのため、どうしても安全圏の提案に留まりやすくなります。
結果として生まれる「技術SEOの空白地帯」
これらの要因が重なった結果、Web制作業界には「技術SEOの空白地帯」が生まれています。
Web制作会社は制作を行い、SEO会社はコンテンツや外部施策を行う。しかし、サイト構造やインデックス設計、クロール効率といった領域を一貫して設計・管理する主体が不在になりがちです。
本来であれば、サイトの設計段階から技術SEOを考慮することで、後からの修正コストを大幅に減らすことができます。しかし、その視点が欠落したまま制作が進み、公開後に「なぜか評価されない」「インデックスされないページが多い」といった問題が顕在化します。
そしてその段階になって初めて、技術SEOの重要性が認識されるのです。
技術SEOをやらないのではなく「やれない」現実
結論として、多くのWeb制作会社が技術SEOをやらない理由は、知識不足ややる気の問題ではありません。
契約形態、ビジネスモデル、人材構造、説明コスト、成果保証の難しさといった、業界構造そのものが技術SEOと噛み合っていないのです。
この現実を理解せずに、「Web制作会社にSEOを任せれば何とかなる」と考えることは、発注側にとってもリスクになります。
重要なのは、制作と技術SEOは別の専門領域であり、必要に応じて役割を分けて考える視点です。
技術SEOは派手ではありません。しかし、検索エンジンに正しく評価されるための土台であり、長期的なWeb集客を成立させるための不可欠な要素です。その重要性が正しく理解されることが、Web業界全体の成熟につながると言えるでしょう。
